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キョンという害獣をご存じでしょうか?
見た目はまるでシカのようですよね。
それもそのはず、キョンはシカ科に属する小型のシカの一種です。
しかし外国からやってきた外来生物であり、近年日本で農作物や自然環境に深刻な被害をもたらし、騒音問題にもなっている「害獣」として問題視されています。
特に千葉県の房総半島や東京都の伊豆大島ではその姿が多く見られており、大量発生していることから地域住民や農家の方々にとって悩みの種となっています。
本記事では、キョンの生態や被害の実態、さらに対策方法について詳しく解説します。
この記事を読んで、キョンに関する知識を深めましょう。
キョン(学名:Muntiacus reevesi)はシカ科ホエジカ属に分類される小型のシカの一種です。
見た目はまるでシカのようですが、体の大きさは一回り小さく頭胴長は70〜100cm程度、体高は40〜50cmとなっています。
体の色もシカに似ていて、背面は茶褐色、腹面は白っぽいクリーム色の毛並みをしています。
また、オスは15cm程度の短いツノを持っており、メスはツノを持っていません。
キョンは森林や山地、草地に生息しており、時折住宅地近くにも出没することがあります。
夜行性であるため、主な活動時間帯は夕方から明け方ですが、昼間に活動することもあります。
また単独行動をする動物であり、1匹1匹が縄張りを持っていると言われています。
巣は持っていません。
行動範囲はメスは約8ha(800m×800m)オスは約15ha(1500m×1500m)という調査結果が出ており、オスとメスで行動範囲が異なることがわかります。
草食性であり、雑草や木の葉、野菜や果物などの果実、草花を食べます。
グルメな性格であり、枯葉や枝などはあまり食べません。
良質な食物を選択的に食べる傾向があり、それが繁殖力の強さにつながっているのではないかと考えられています。
キョンは非常に高い繁殖力を持っています。
キョンは年に2回の繁殖期があり、1回の出産で1頭の子供を産むことができます。
また、キョンは生後半年で性成熟し妊娠が可能になり、生後一年で出産します。
そのため世代交代のサイクルが短く、個体数の急増を招く要因となっています。
繁殖は特定の季節に限定されず、環境条件が整っていれば、1年中繁殖可能とされています。
キョンは中国南東部や台湾に分布する動物ですが、日本には20世紀後半に千葉県房総半島南部と東京都伊豆大島の2ヶ所の施設に飼育目的で日本に持ち込まれました。
その後、上記の2ヶ所の施設から飼育個体が逃げ出したことにより、野生化してしまったことから定着してしまったと考えられています。
在来種の生態系を破壊してしまう可能性が高いことから、外来種の中でも、生態系に特に被害を与える危険性があるとされる「特定外来生物」に指定されています。
このことからも両県「キョン防除実施計画」を行っており、積極的な駆除が進められています。
千葉県勝浦市にあった観光施設「行川アイランド」に1960~1980年代に持ち込まれたと言われています。
そこで飼育していたキョンが逃げ出し、1980年代にキョンが野生個体で発見されるようになりました。
2004年には勝浦市など、房総半島南部の5市町で生息が確認されていましたが、2020年度には17市町まで生息が確認されています。
千葉県内の推定生息数は2006年の調査では9000頭、その後右肩上がりに増加していき令和元年には約44000頭が生息しているという調査結果であり、13年の間で推定5倍に生息個体数が増えたとされています。
東京に近い柏市でも目撃されており、最近では茨城県でもその存在が確認されています。
伊豆大島は東京都から120km南の洋上に浮かぶ伊豆諸島最大の島です。
今でも伊豆大島に現存する動物園「都立大島公園」に1960年頃に持ち込まれたと言われています。
そこで飼育されていた十数頭のキョンが台風の影響で柵が壊れたことにより逃げ出してしました。
市内の推定生息数は環境局の2010年の調査によると3000頭生息していたとされており、2014年の調査では伊豆大島の人口8000人を超え1万1000頭まで増加しました。
その後も年々増加していき2022年では約21000頭ほどが生息されているという推計値を発表しました。
繁殖が拡大した理由としてキョンの天敵であるオオカミやクマがいなかったからだと言われています。
なぜここまで急速に個体数を増やしているのでしょうか。
繁殖力の高さが主な原因ですが、もう一つの理由があります。
それは、千葉県と伊豆大島では、キョンを捕食するオオカミやクマなどの天敵が存在しないからです。
オオカミは日本には生息していません。
加えて伊豆大島にはクマがおらず、千葉県は日本で唯一のクマなし県であるため、個体が減っていかず、個体数が右肩上がりに増加していってしまっています。
このままだと大変なことになってしまうため、個体数を抑制するためには早期の対策、早急な駆除が必要とされています。
キョンは外来生物であり、様々な被害を私たちに与えてきます。
キョンによる被害は大きく分けて3つありますので紹介していきます。
キョンは草食性であり、雑草や木の葉、野菜や果物などの果実、草花を食べます。
そのため、畑や果樹園で深刻な食害を引き起こします。
千葉県では主に稲、豆類、いも類、野菜類、果樹、特用林産物など多岐にわたって被害が報告されています。
被害総額令和3年度での報告では、平成29年で2400万円、令和1年は1200万円であったと報告されています。
伊豆大島では特産葉物野菜「アシタバ」の被害が大きく、椿油用のツバキの葉や島で栽培されている農作物などが多く食害を受けています。
被害状況は2015年度で約369万円にのぼります。その後は被害額の報告はされていないが、生息数が2015年から2022年まで約2倍に増加していることから被害総額も2倍程度の700万円程度になっていることが予想されます。
キョンは草食の外来生物です。
在来植物を食べ尽くすことで、自然環境のバランスが崩れ、生態系の破壊につながります。さらに、希少植物が絶滅の危機に瀕するケースも報告されています。
千葉県ではニホンジカとキョンの分布が重なっていることに加え、食べる餌が被っていることから餌資源をめぐる間接的な競争が起こっている可能性があります。
このことからキョンが増えていくことで、在来生物であるニホンジカの餌が減ってしまい、いずれ絶滅の危機に遭ってしまうのではないかという危惧がされています。
伊豆大島では、環境省が絶滅危惧II種(絶滅の危険性が高い種)に指定、都では絶滅危惧IB類(近い将来における絶滅の危険が極めて高い種)に指定する花「キンラン」や、都が絶滅危惧IA類(ごく近い将来における絶滅の危険が極めて高い種)に指定する花「ギンラン」といった希少な植物が自生しています。
キョンはこれらの花を食害してしまうことから、生態系への大きな被害が危惧されています。
これらのことから在来種の生態系を破壊してしまう可能性が高いことから、外来種の中でも、生態系に特に被害を与える危険性があるとされる「特定外来生物」に指定されています。
特定外来生物とは、日本に本来生息していない外来種の中で、国内に定着すると生態系バランスを乱し、在来種の減少や絶滅につながることがある外来生物を指します。
法律に基づいて規制されており、輸入や飼育、移動が厳しく規制されています。
キョンの他にアメリカザリガニやウシガエルが、セアカゴケグモ、ヌートリアなどが挙げられます。
その法律は特定外来生物について記された、「外来生物法」です。正式には「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」といいます。
これは国内の生態系、人間の健康に与える重大な被害を防止することが目的とされています。
また、個人が駆除・捕獲するのは基本的に禁止されており、自治体に申請し許可を得るか、自治体に駆除・捕獲してもらう必要があります。
外来生物法についてはこちら(環境省HP)を参照してください。
普段は人里離れた山の中や森の中にいることが多いキョンですが、生息数が急激に増えてきたことが影響し、市街地でその姿を見せることが増加しました。
その影響もあり、農作物や自然だけでなく私たちの生活にも被害を及ぼしてしまっているのが現状です。
どのような被害があるか、大きく分けて4つ紹介します。
キョンは一見は可愛らしい見た目をしていますが非常に不気味な一面もあります。
それはキョンが発する「ギャー!!」というまるで叫び声のような大きな鳴き声です。
「音が大きいからいつもびっくりする・・・」
と住民からも苦情が上がっているように、非常に不気味で大きい鳴き声は迷惑な騒音問題になっているのです。
また、夜行性のため、夜にこの鳴き声が聞こえることが多く
「うるさくて夜眠れない・・・」「鳴き声のせいで赤ちゃんが起きてしまう・・・」
という声も寄せられています。
キョンは丸くコロコロとした糞をします。
住宅地に現れて、いたるところで糞をされてしまうと不潔ですよね。
誤って子供が触れてしまう恐れがあったり、市街地で糞や尿が堆積してしまった場合、感染症につながる懸念もあると考えられています。
また、近年では都心近郊でも見られるようになったキョン。行き場所を失ったキョンが空き家を住処にしているという事例も増えています。
その空き家に糞や尿が堆積してしまうことで感染症のリスクがあるとも考えられています。
草食動物であるキョンは市街地に降りてきた際に、民家で育てている樹木の葉っぱや花壇の草花、野菜や果物の果実を食べてしまう恐れがあります。
また芝の庭がある場合、芝が食べられてしまい一部がはげてしまっていたという被害事例があります。
市街地に現れるキョンが増えてくると、鉄道に悪影響を与えます。
キョンは鉄分を補給するために、レールを舐めにやってきます。
その際、鉄道と接触する恐れがあり、接触した場合大幅に遅延してしまうため住民の方に大きな迷惑がかかってしまいます。
まだキョンの事例は確認できていませんが、同じ習性を持つシカによる接触事故は全国で数千件単位での事例があり、これからキョンが増加していった場合この接触事故の件数がさらに増えてしまう可能性が推測されます。
近年、市街地でも目撃されることが増えたキョン。
もし家の周辺や出先で見つけたらどうすればいいのでしょうか。
【3つの注意すべき点】
見つけても絶対に近づかないようにしましょう。
もし近づいたり、自分で捕獲しようとすると角で攻撃されたり、蹴られてしまう危険性があります。
怪我をしてしまう恐れがあるのに加えて、ノミやダニによる感染症にかかってしまう恐れがあるので絶対やめましょう。
キョンを個人で捕獲しようとするのは非常に危険です。
その上「特定外来生物」に指定されているため、捕獲する場合多くの自治体で法令手続きが必要になるため、見つけたらお住まいの役所に連絡をするようにしましょう。
市街地など出先で見つけた場合でも、様々な被害の可能性が考えられますので、役所に連絡するようにしましょう。
キョンは作物を食い荒らし、農業をしている人に大きな被害を与える恐れがあります。
もし畑や農場近くでキョンを見つけたり、被害にあったりした場合どのようにして畑や農場を守ればいいのでしょうか。
環境省の推奨により、千葉県と伊豆大島では支柱にネットを取り付けた柵や金網柵、電気柵を設置を設置侵入防止策を設置しています。
これは侵入を防ぐ策としては一番効果的だと言えます。
また、ネットの侵入防止策を設置する場合、地面とネットの間に隙間があったり、ネットの目が大きかったり、緩んでいたりすると効果が低下してしまう恐れがありますので注意しましょう。
金網柵と電気柵は費用と労力はかかりますが、ネット柵よりも効果があるのでおすすめです。
これらの侵入防止柵は柵が低すぎると飛び越えられてしまう恐れがあるので、100cm以上にすると安心です。
箱罠とはその名の通り箱型の捕獲用のトラップです。中に餌を置いて設置しておくことで、餌に引き寄せられた害獣を捕獲することができます。
伊豆大島では平成20年度から箱罠を使用しての捕獲を行っています。
箱罠は全国の市区町村からの貸し出しを行なっています。
農業を行なっている方は申請すれば借りることができますのでお住まいの市役所に連絡しましょう。
くくり罠はそこを通ったキョンの足をワイヤーで締めることで捕獲することができます。
人間に怪我をさせてしまう恐れがあることから、こちらは個人で行うのは禁止されています。
千葉県、伊豆大島ともに、箱罠よりも効率がいいとしてくくり罠での捕獲が主流となっています。
2019年度の千葉県では、捕獲された84%のキョンがこのくくり罠で捕獲されています。
日本でキョンは「特定外来生物」に指定されています。
このため、捕獲する際は自治体に申請し、許可を得る必要があります。
見つけた場合は早急にお住まいの役所に連絡をして、捕獲のお願いをしましょう。
千葉県、伊豆大島(東京都)茨城県ではキョンの対策・捕獲の取り組みを行っています。
申請をすれば箱罠という捕獲器の貸し出しや捕獲活動の支援を受けることができますので困った時は自治体に連絡・申請をしましょう。
2017年以降、千葉県に面している茨城県では、境の神栖市や筑波山などで目撃されるようになりました。
2017年に神栖市と千葉県を結ぶ橋で死んでいるのが初めて見つかり、23年までに4件の目撃情報がある。
この状況を重く受け止めた茨城県は、2024年5月30日から写真や動画による目撃情報や捕獲に対して報奨金を出す制度を始めました。
具体的な報奨内容は写真や動画での目撃情報1件あたり2000円、捕獲すれば1頭あたり1頭あたり3万円を支払うと言います。
県内の目撃例は多くないですが、隣県で大量に繁殖していることから、大規模な「越境」を食い止めたい考えているとのこと。茨城県は「できる限り情報を集め、対策を練りたい」と協力を呼びかけています。
Q1: キョンの鳴き声は?
A: キョンの鳴き声は「ギャー!!」といった不気味な叫び声のような音が特徴です。特に危険を感じた時や興奮した際に大きな声で鳴きます。夜間や早朝に住宅地近くでこの鳴き声が聞こえることもあり、騒音被害として問題になることがあります。
Q2: キョンはペットとして飼えますか?
A: 日本では特定外来生物に指定されているため、飼育は法律で禁止されています。
Q3: 自分でキョンを捕獲してもいいの?
A: キョンは特定外来生物に指定されているため、個人が無許可で捕獲することは法律で禁止されています。違反した場合、罰金や懲役が科せられることもあります。駆除には専門の知識と許可が必要なため、必ず自治体や害獣駆除の専門業者に相談してください。
Q4: キョンに出会ったらどうすればいい?
A: キョンは通常、人間に対して攻撃的ではありません。しかし、角を持つオスや驚いたキョンが突進する可能性もあるため、近づかずに静かにその場を離れることが最善です。すぐに自治体や害獣駆除業者へ連絡し、対応を依頼しましょう。
Q5: 駆除費用はどのくらいかかる?
A: 自身での捕獲は原則禁止されており、自治体にお願いすることが規則付けられています。そのため、自治体にもよりますが、費用はかからないことが多いです。詳しくはお住まいの役所のHPを確認するか、電話にて確認しましょう。
本記事では、千葉県と東京都伊豆大島で大量発生している外来指定生物「キョン」について紹介しました。
小柄なシカのようで可愛らしい見た目をしていますが、農作物被害や生態系の破壊など、私たちに深刻な影響を与えている害獣です。
キョンは高い繁殖力と天敵の不在により個体数を増やし続け、生息地を徐々に広げつつあります。
これからの被害拡大を防ぐためにも、茨城県の政策のように自治体と住民が協力することが重要になってきます。